娘が大蛇となった姿見ずの橋
どんな伝承か
中野の里に鈴木九郎という気丈な男がいた。紀州から流れてきて、武蔵野の原で一貫文の痩せ馬を買って売ることから身を起こし、田畑を広げて長者となる。娘の露野は評判の美しさで、里の若者が競って婿入りを望み、なかでも高田の小太郎という物持ちが叔父の市谷左源太を立てて話をまとめた。婿入りの前夜、熊野の森に黒雲が湧いて大風と豪雨が起こり、長者の家から大蛇が走り出て十二社の池へ躍り込んだ。それが娘の化身だった。怨霊は橋のたもとをさまよい、輿がその橋を渡ると新婦の姿は消えて落合の村で見えたという。姿を隠した橋を姿見ずの橋と呼ぶ。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第5巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第5巻』は、叢書「日本伝説大系」の一巻をなす伝説資料集である。埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の伝説を扱い、二つの太陽、蹴裂明神、ダイダラボッチ、平将門、源頼朝、豪徳寺の招き猫、黒塚、山の背競べ、親捨てなどの話ごとに、口承を重んじて選んだ例話を掲げる。各項は例話に〔類話〕〔文献〕〔参考〕を添え、類話は伝承地ごとに梗概で示し、文献は近世以後の史料を原文で抄出し、柳田・高木の分類による話型名を併記する。