桶狭間の松に現れた義元の霊
どんな伝承か
知多郡有松町にある古戦場桶狭間の池のそばに、古い大きな松の木がある。むかし、碧海郡柵尾村、いまの刈谷市の鰻屋が、ここで戦死した今川義元の命日にあたる旧の五月十九日、夜遅くこの松のあたりを通りかかると、かぶっていた菅笠にぱらぱらと松の露が降りかかった。先ほどから薄気味悪い思いで歩いていた鰻屋が松の梢を仰ぐと、その上の空に白馬にまたがった今川義元の姿が現れている。そして世にも恐ろしい声で、見たか、見てもよいが誰にも言うでないぞ、と言って掻き消すように見えなくなった。鰻屋は腰を抜かして震えていたが、ようやく家へ帰って家の者にこのことを話すと、まもなく急病が起こってその晩に死んでしまった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
愛知県伝説集(福田祥男・1961年(昭和36年))
『愛知県伝説集』は、福田祥男が昭和三十六年に著した愛知県の伝説集である。尾張・三河の山や海、淵や池、地蔵と観音、石や塚、城跡、地名、動物と変化、植物、祟りと怨霊などにまつわる言い伝えを、原型に忠実に再現することをめざして平易な文で語り直し、話の末に郡市名を添える。山の伝説から其の他の伝説まで十五の部に分け、あとがきでは前年に出した『愛知県伝説集・虹と黒潮』を全面的に改稿し増補したと記す。