猿の足が生まれ変わった五本松
どんな伝承か
東秩父村には、高さ二十メートル、太さ一メートルにもなる五本松という大松がある。昔、長雨が上がった日に草刈りに出た農夫が、草の実を食べている猿を見つけ、生け捕りにしようと草むらに身を潜めた。気づいて逃げかけた猿と手足や口まで使っての取っ組み合いになり、血まみれになった農夫は腰の鎌で猿の足を軽く打ったつもりが切り落としてしまい、猿はほどなく死んだ。哀れに思った農夫は猿を持ち帰って土に深く葬った。二、三年後、その場所の道端に幹が五本に分かれた珍しい松が生えているのに気づき、猿の足が松に生まれ変わったのだと村人に話した。以来松は大切に守られ、風のない夜でも揺れて悲しげな音を立てるという。
原典より
秩父郡東秩父村に五本松と言われる、高さ二○米、直径一米もある大きな松があります。—— 秩父の伝説と方言 より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
秩父の伝説と方言
『秩父の伝説と方言』は、秩父市教育長鶴沢福松の序を付し、編集委員が執筆整理にあたって編んだ秩父地方の伝説と方言の集成である。秩父市と秩父郡に伝わる伝説を集め、武甲山麓のジジイ・ババア石、橋立鍾乳洞の悪龍、畠山重忠や坂上田村麻呂にまつわる話、伐ると祟る天狗松などを語り口調で記す。伝説は石・水・塚・屋敷跡・山と人物・地名・社寺および城跡・木に関する八つの部に分け、話によっては他地方の類話を注記する。