狐塚の狐に肥溜の風呂をもらった男
どんな伝承か
秩父市下影森の神原に狐塚という塚があり、この塚の狐はときどき通りすがりの人を悩ませた。大宮の妙見祭の帰り、仲間に遅れた某が道に迷うと、前方に灯のついた家が見えた。狐の仕業だと思い、道端の石に腰かけて一服しようとすると、「ここは悪い狐がいるから気をつけなさい」と言う人がいる。その親切につられてついて行くと家に着き、妻女が茶を出して同じことを言うので、すっかり安心して一夜を明かした。翌朝、行方を探し回った村人が見つけると、彼は広い草原に一人で座り、「風呂をもらって今うどんをご馳走になっている」と誰もいない相手に礼を言っていた。風呂は肥溜、うどんはミミズだったという。
原典より
昔、ある男が、貰い風呂をしている積りで、「ああ結構、結構な湯加減、焚かなくても結構です」といって、手拭を禿頭に乗せてひとりで喜んでいる。—— 埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成――分類と解説 上』は、韮塚一三郎が埼玉県内の伝説を類型ごとに集めて編んだ伝説集の上巻である。片目の魚、化かす狐や狸、松・杉などの樹木、石や岩、ダイダラ坊と山、清水・渕・池・井戸にまつわる県内各地の伝説を、郷土誌や地誌、『埼玉史談』などの文献と、地元の資料提供者や話者の報告から採って収める。各話に所在地と出典を添え、話型ごとに〈解説〉を置いて全国の類例と信仰の背景を論じ、[参考]文献を挙げる。