作り事に満ちた遠山奇談という本
どんな伝承か
『遠山奇談』は、近年になって古本屋の店先によく並ぶようになった書物で、柳田は心がけのよくない嫌な本だと評する。京都の大火のあと本願寺を建て直すとき、宗派の僧が用材を探しに山奥の遠山という所へ苦労して旅した見聞録という体裁をとるが、事実らしいのは第一巻くらいで、残る四巻はすべて作り事であり、都会の人の乏しい知識から割り出した空想で満ちているという。どこを通って遠山へ入ったのかも、集落や家の名も挙げていない。百数十年前にもこうした本があったのだと柳田は戒めている。
原典より
遠山奇談といふ書物は、妙に近年になつてから、古本屋の店によく並んで居たが、まことに心掛けのよろしくないいやな本の一つであつた。—— 定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。