夜になると元気を出す老婆
どんな伝承か
江戸時代の文政一一年(一八二八)三月ころ、大番町の画家雲峯の家に仕えていた老婆が不思議な病気にかかった。飯は五、六杯食べるのに体はやせ衰え、昼は足腰が立たないが、夜になると急に元気が出て部屋中を飛び回った。夜中に寝床から火の玉が飛び出すこともあり、女中は気味悪がって寄りつかなくなった。秋には枕もとに柿や栗が山と積まれ、夜具にけだものの毛がついていた。医者の松本良斉は、脈が不整なのに人一倍食べるのはタヌキのしわざではないかといった。読み書きできない老婆が歌を書いて示した夜、家人が真夜中にのぞくと床からタヌキのしっぽが出ており、打ち殺すと頭髪の白い古ダヌキで、老婆も息を引き取ったという。
原典より
時代 江戸時代 文政一一年(一八二八) 三月ころ大番町に雲峯という画家が住んでいた。—— 新宿と伝説(新宿区教育委員会・1969年(昭和44年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
新宿と伝説(新宿区教育委員会・1969年(昭和44年))
『新宿と伝説』は、新宿区教育委員会が昭和四十四年に編んだ区内の伝説集である。カッパが出る坂、四谷怪談のお岩、矢来町の化け石、女幽霊が掘った清水など、牛込・四谷・戸塚大久保・新宿・淀橋柏木落合の各地に伝わる六十二の伝説を、江戸の地誌や随筆などから採って収める。第一章で伝説の分布と型を概説し、第二章では地域別に、各話へ場所・時代・出典・解説・参考書を添える。