かご屋を化かした老剣士
どんな伝承か
宝暦一三年のことである。新宿に剣術指南の道場をもつ老剣士、岩田郷祖軒という男がいた。本所からの帰りに柳原の古着店でキツネの尻尾を買い、たもとに突っこんで辻待ちのかごに乗った。牛小屋あたりまで来ると、かごかきが震えながら話し合っている。袖口の尻尾を見てキツネが乗っていると思い違いをしているなと察した郷祖軒は、いたずら心から、拙者は三光院の稲荷の脇に住む者だ、さっさと急げと命じた。かご屋はいよいよ薄気味悪がって降りてくれと哀願するので、やむなく降り、一二文を渡し、一文を残して使えばもとに戻ると言い置いて走り去った。のちに郷祖軒はこれを言いふらすうち気がへんになり、狂い死にしてしまったという。
原典より
場所 新宿二丁目(番地不明)時代 江戸時代 宝暦一三年(一七六三)宝暦一三年のことであった。—— 新宿と伝説(新宿区教育委員会・1969年(昭和44年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
新宿と伝説(新宿区教育委員会・1969年(昭和44年))
『新宿と伝説』は、新宿区教育委員会が昭和四十四年に編んだ区内の伝説集である。カッパが出る坂、四谷怪談のお岩、矢来町の化け石、女幽霊が掘った清水など、牛込・四谷・戸塚大久保・新宿・淀橋柏木落合の各地に伝わる六十二の伝説を、江戸の地誌や随筆などから採って収める。第一章で伝説の分布と型を概説し、第二章では地域別に、各話へ場所・時代・出典・解説・参考書を添える。