落武者の怨みで蛇が見える家
どんな伝承か
この村のとある家へ、ある時、一人の落武者が慌てふためきながら駆け込んで来て、しばらくかくまってくれと頼んだ。主人は快く承知し、落武者を裏の間へ引き入れた。間もなく追ってきた軍勢が、この家へ逃げ込んだようだから引き渡してもらいたいと掛け合うと、主人は固くかくまうと言った裏をかき、隠しだてもなく隠れ場を教えたので、落武者は苦もなく引きずり出されて殺されてしまった。殺される際、武士はその家の人間を非常に怨み呪って死んだそうで、それからその家には執念の蛇の影が現れるようになった。客の間、茶の間、絵の裏など、居るはずのないところに蛇が見えるが、他家の者には決して見えないという。
原典より
此村のとある家へ、或時、一人の落武者の姿が、あわてふためきながら駆け込んで来て、どうか暫くかくまつてくれろと頼みだつた。—— 日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年))
『日本伝説叢書 上総の巻』は、藤沢衛彦が大正六年に編んだ上総国の伝説集である。夷隅・長生・山武・市原・君津の五郡にわたり、地名の由来、社寺の縁起、城と武将の事跡、大蛇や狐つきの怪異、俚謡や民間の風俗を、口碑や『総国誌』などの地誌から集める。巻頭に著者の序と緒言を置き、上総国と郡の名義を説いたのち、郡ごとに町村の所在を添えた見出しで一話ずつ並べる。