日蓮の題目に鯛が群がった鯛の浦
どんな伝承か
蓮華潭の西南、大きな岩が海中に三町余りも立ち並ぶあたりでは、土地の人が昔から魚釣りを禁じているため鯛が群れをなしている。ここはもと陸地で誕生寺の旧跡だったが、貞享のころ地震と津波で海に沈んだ。当時この浦は妙の浦と呼ばれていた。日蓮上人が船を浮かべて題目を唱え、経巻を海に投じると、不思議にも七文字の経文が水面に現れ、どこからともなく鯛が群がり集まった。それ以来ここを鯛の浦と呼び、殺生すれば必ず祟りがあると恐れて網も釣りもしないので、鯛の数は幾千万とも知れぬほど増えた。今も小舟を出して餌を投げれば、鯛の群れが黒雲のように寄ってくる奇観が見られるという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 安房の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1919年(大正8年))
『日本伝説叢書 安房の巻』は、藤沢衛彦が大正八年に編んだ安房国(千葉県)の伝説集である。天富命の渡来や源頼朝・里見氏・日蓮にまつわる英雄伝説を中心に、社寺の縁起、風俗・信仰、船幽霊や一本足の蛸などの特異な伝承を、『安房志』『房総志料』などの地誌や寺伝・口碑から引いて収める。緒言と「安房国と牛」と題する序を巻頭に置き、鋸山から小湊まで各話に所在の郡村大字を添えて土地ごとに並べ、緒言では百八十六種を蒐集したと記す。