天狗にさらわれたと語る渡し番の男
どんな伝承か
筆者が幼いころ、天狗にさらわれて長く山中に住んでいたと自称する、三十歳ほどの蓬髪垢面で背丈六尺あまりの男が、ぼろぼろの白衣を着てどこからともなく村へ流れ込んできたことがあった。頼まれれば祈祷やまじないをする一方、毎日子供たちに交じって魚を釣り、その腕前は名人級であった。ちょうど村の渡し場の番人がいなくなって困っていたので、その男に番小屋に住んでもらうことにしたが、素性も本名も語らず、ただ山の中で草木の実や魚を食べて暮らしていたとだけ話した。半年ほど渡し番を務めたのち、あるとき忽然と行方知れずになってしまったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 1 河童・天狗・神かくし(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 1 河童・天狗・神かくし』は、松谷みよ子が編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞書で全国から寄せられた話と、郷土誌や雑誌『旅と伝説』などからの引用を、県別に話者・回答者・出典を添えて並べ、奄美・沖縄のケンムンやブナガヤにも及ぶ。目次では河童・天狗・神かくしの三章の頭にそれぞれ「考」を置き、巻末に河童の名称、天狗・神かくし年表、あとがきを掲げる。