石灰石の現場に夜ごと響く狸の作業音
どんな伝承か
徳島県阿南市上中町の伊川公司が書き留めた話。南島の新車には多くの狸が住んでいて、人を化かしたり、人の真似をして困らせたりしたという。ある時、真島清太郎という豪農がいて、近くで人夫を雇い石灰石を小割りさせていた。ところが夜になり、人夫も仕事を終えて帰ってしまったはずなのに、現場では石を割る音、石を量る音、石を運ぶ音、その上に話し声までも聞こえてくる。附近の若者がともし火を持って調べてみても何も変わったことがなく、遠ざかると再び前のような音がする。翌朝になって現場へ行ってみても、昨日の仕事の現場と少しも変わっていない。これはみんな狸の仕業だといわれ、新車の噂の種になっていた。大正の頃の話である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 11 狸・むじな(松谷みよ子・現代民話考・1995年(平成7年))
『現代民話考 11 狸・むじな』は、松谷みよ子が一九九五年(平成七年)に編んだ現代民話の資料集である。明治から現代までに各地で語られた狸・むじなの話を、聞き書き、読者の回答、郷土誌や民話集、新聞記事から集める。狸火、腹つづみ、音まね、いたずら、化かし、たたり、人助け、戦争にいった狸、今の暮しなど十二の部に分け、話例ごとに本文と類話の「分布」を添え、巻頭に序文と前文、巻末にあとがきを置く。