汽船の黒煙を黒雲と踊った炭焼き
どんな伝承か
高知県の話で、明治末期のことかといわれる。尾崎村の沖合いを、高知から阪神方面へ向かう汽船が通るようになったころ、千本山の高い峰で二人の村人が炭木を切っていた。昼過ぎ、十日に一度ほどの阪神行きの汽船が沖の「大なん」を通り、石炭の焚き方が悪いのか黒煙がもくもくと空へ昇った。それを見た一人が、蒸気が黒雲を上げていると素っ頓狂な声を出し、仕事を放り出して山の上へ駆け登りながら踊ったという。その人の名は今では誰も覚えていないそうである。
原典より
東北本線が開通して間もない頃、祖父が酒を飲んでいて、なかなか乗車しない。—— 現代民話考 12 写真の怪・文明開化(松谷みよ子・現代民話考(立風書房)第十二巻・1996年(平成8年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 12 写真の怪・文明開化(松谷みよ子・現代民話考(立風書房)第十二巻・1996年(平成8年))
『現代民話考 12 写真の怪・文明開化』は、松谷みよ子が一九九六年にまとめた現代民話の資料集で、同シリーズの第十二巻にあたる。雑誌での呼びかけやアンケート、聞き書きで寄せられた話と新聞・雑誌の記事を、心霊写真をめぐる怪異と、明治以降の電信・汽車・電気燈などの新しい文物や流行病に戸惑う人々の話に分けて収める。話例ごとに本文を掲げて各地の類話を分布として並べ、話者や回答者の名と出典を添える。