村一番の自転車に乗った医者の最期
どんな伝承か
村の人々は自転車を見ておどろき、田のあぜでも通れる二つ輪の車があると噂した。大江町でいちばんに自転車を買い入れて乗ったのは、河東の金田さんという医者だったという。当時の部落の道はせまく、谷水が所どころ道を横切って流れていたので、最新式の自転車もすぐ止まってしまい、とても乗れたものではなかった。金田さんは自分の家から板を持ち出して道に一列に敷きならべ、その板のレールの上を気持よく走った。一年ばかり乗っていたが、ある日自転車もろとも倒れて膀胱を破裂させ、それがもとで亡くなったと伝わる(明治三七年)。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 12 写真の怪・文明開化(松谷みよ子・現代民話考(立風書房)第十二巻・1996年(平成8年))
『現代民話考 12 写真の怪・文明開化』は、松谷みよ子が一九九六年にまとめた現代民話の資料集で、同シリーズの第十二巻にあたる。雑誌での呼びかけやアンケート、聞き書きで寄せられた話と新聞・雑誌の記事を、心霊写真をめぐる怪異と、明治以降の電信・汽車・電気燈などの新しい文物や流行病に戸惑う人々の話に分けて収める。話例ごとに本文を掲げて各地の類話を分布として並べ、話者や回答者の名と出典を添える。