的さまの岩で五人を睨みすえた大蛇
どんな伝承か
今から七〇年ほど前、明治一七年の話である。当時の道志では畜産が盛んで、村民は毎朝馬草を一駄ずつ刈るのが日課だった。その日も部落民五人が馬にまたがり、室久保沢筋へ草刈りに出向いた。的さまという岩の手前まで来ると大きないびきが聞こえてきた。恐ろしいものこそ見ずにいられず、渓流沿いの崖上の花崗岩の巨石に目を移すと、岩の上のウツギの古木を三巻きし、垂れ下がる枝まで鎌首をのしあげた大蛇が五人を睨みすえていた。五人は夢中で家へ逃げ帰り、みな悪寒をもよおして震えあがり、その後四人は長患いし、一人はついに悶え死んだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 9 (木霊・蛇)(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 9 (木霊・蛇)』は、松谷みよ子が全国の回答者から寄せられた報告と各地の民話集をもとに編んだ『現代民話考』の一巻である。明治から平成にかけて語られた、伐ろうとすると祟る木・泣く木・血を流す木などの木霊の話と、大蛇やつちのこ、蛇婿・蛇女房、主や守り神としての蛇、蛇と福運などの話を、話者や回答者の名とともに収める。第一章「木霊」と第二章「蛇」を主題ごとの節に分け、各話例の後に「分布」として類話の地名と出典を並べる。