岩穴からおびき出したのづつ
どんな伝承か
明治のはじめ、工石山の山続きにある鳴田野の空滝の岩穴には、狸が入るのに手ごろな穴がいくつもでき、胴回りの大きな蛇がいくらでもいたという。のづつもそこが根城であった。のづつは蛇のように体は長くないが胴回りが太く、人の胴ほどもあって、横にころころ転がって歩く。仕事の連中も、それが転んで来ると鍬や柄鎌を放り出して逃げたという。ある男が枝打ちをしていると、そののづつが転び出てきた。気の強い男が芯木で食らわすと、のづつは岩穴へ転び込んで出てこない。男は穴から退いて細い声でおびき寄せたが、思いのほか早く大きなのづつが跳ね返ってきた。男は仰天し、叫びながら大峠から相川まで逃げ抜けたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 9 (木霊・蛇)(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 9 (木霊・蛇)』は、松谷みよ子が全国の回答者から寄せられた報告と各地の民話集をもとに編んだ『現代民話考』の一巻である。明治から平成にかけて語られた、伐ろうとすると祟る木・泣く木・血を流す木などの木霊の話と、大蛇やつちのこ、蛇婿・蛇女房、主や守り神としての蛇、蛇と福運などの話を、話者や回答者の名とともに収める。第一章「木霊」と第二章「蛇」を主題ごとの節に分け、各話例の後に「分布」として類話の地名と出典を並べる。