田圃の石塊から響く餓鬼の声
どんな伝承か
花巻農学校の同僚だった白藤慈秀が書き残した話である。賢治は農業実習を終えると実習服のまま、心象スケッチ集を懐に、あてもなく歩きに出るのが常だった。ある日、学校から程近い北万一丁目付近の田圃を歩いてきたと語った。畦道の一隅に大きな石塊が一つだけ置かれ、何の文字も刻まれていない。賢治は、その昔この一帯が野原だったころ人畜を埋葬した目じるしに違いないと考え、石の前に立って経を読み、跪いて瞑想にふけった。すると石塊の下から微かな呻き声が聞こえ、耳を澄ますうちに次第に凄まじい声へ変わった。それは餓鬼の、食物を争奪する叫び声であったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
あの世はあった―文豪たちは見た、ふるえた(三浦正雄・矢原秀人・2006年(平成18年))
『あの世はあった――文豪たちは見た!ふるえた!』は、三浦正雄と矢原秀人が二〇〇六年に著した、近代日本の作家や知識人の霊体験を紹介する読み物である。熱海の旅館で遠藤周作と三浦朱門が同時に遭った幽霊、佐藤愛子の心霊現象、菊池寛・宮沢賢治・小泉八雲・土井晩翠・新渡戸稲造・南方熊楠らの体験、夏目漱石の臨死体験を、本人や周囲の文章を引いて語る。一人一章の全十二章にまえがき・あとがきを添え、巻末に霊媒クランドン夫人の実験記録を付録として収める。