下山の途で幻がうつりあった冬山遭難
どんな伝承か
南山大学山岳部の冬山合宿は昭和三十六年の暮れから入念に準備されたが、年末から正月四日まで荒天が続いた。五日に晴れ、四人が奥穂高を目指したものの、天気が急に崩れてベースキャンプⅡへ引き返した。七日、キャンプをたたんで下る途中で部員のK君が雪庇ごと転落する。仲間は八日いっぱい捜し回ったが救えず、中崎山荘へ戻ることにした。ところが深い新雪に阻まれ、二時間半の道に二泊三日を費やした。その間、リーダーのW君を除く三人に幻覚が現れて互いにうつりあい、H君には山笹が死体に、木立に立てかけた棺桶や山腹の家並みが見え、N君はお菓子の家を見て家が逃げると叫んだ。W君は冷静さを保ってビバークを決めた。
原典より
このときリーダーのW君を除く残りの三名に幻覚が現れ、相互に影響しあったという。—— 怪談の科学――幻覚の心理を探る(中村希明・中村希明・精神医学) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の科学――幻覚の心理を探る(中村希明・中村希明・精神医学)
『怪談の科学――幻覚の心理を探る』は、中村希明が精神医学の立場から著した怪談の解説書である。新聞記事の幽霊騒ぎや体験談、民話の化かされ話、「浅茅ヶ宿」やハムレット、『四谷怪談』などの古今東西の怪談を取り上げ、その多くを高速道路催眠現象、感覚遮断、飢えや寒冷、睡眠や薬物による幻覚として説明する。生理的幻覚から精神変調時の幻覚までを四章で分析し、第五章「怪談の論理」で恐怖と幻覚の仕組みと日本の幽霊の特色を論じる。