機動隊の寝室に立つ焼死した女工たち
どんな伝承か
墨田区の第二機動隊、かつての七方面予備隊の建物では、宿舎に泊まった隊員が続けて同じものを見ている。一階の隅に蚊帳を吊って寝ていた男は、午前一時ごろ足の方から順に体が重くなり、声も出せずにもがくうち、防空頭巾をかぶった女と、血に濡れた鉢巻きをした女が目の前に現れた。顔は炎にただれ、目玉がむき出しになっていた。同僚も、焦げたもんぺに縮れ髪で消火道具を握った女や、火傷を負った二十歳前後の娘を見たという。この場所は戦時中は航空機の軍需工場で、昭和二〇年三月一〇日の空襲の際、最後まで消火にあたった女工が幾人も焼け死んだ、ちょうどその寝台のあたりだった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。