公卿に化けて問屋に泊まった狢
どんな伝承か
今から百五、六十年ほど昔、本吉郡松岩村に、公卿を名乗る一行が多くの供と警固を従え、地方巡検と称して回ってきた。一行は片浜下の海産物問屋畠山方に泊まったが、公卿は生臭物を好み、漁期の鰹を家人が驚くほど貪り食った。七日ほど滞在する間、一度も入浴せず、犬をひどく嫌って外出を控え、たまに出ると犬が集まって異様に吠えた。出立の際も犬を避けて舟を仕立てたが、気仙の有住まで来たところで群犬に襲われて咬み殺され、狢の正体をあらわしたという。別伝では、家人が怪しんで風呂に入れ、節穴から覗くと大きな獣が湯桶の縁に立っており、鉄砲で仕留めると翌朝の日に照らされて大狢に還ったと伝える。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
宮城県史 民俗編(茂木徳郎(「妖怪 幽霊」の章)・宮城県史シリーズ)
『宮城県史 民俗編』は宮城県の県史の民俗編で、ここに収めるのは茂木徳郎が執筆した章「妖怪 幽霊」である。山・道・木・水・海・雪・家など出現の場所による分類に沿って妖怪変化を論じ、幽霊とヒトダマ・死霊・生霊の観念を考えたうえで、県内の妖怪・幽霊・動物変化の伝承を郡・町村名を添えて集める。序説・本論・事例篇・参考の順に並び、序説では昭和二十四年の迷信調査と昭和三十年のNHK仙台中央放送局の調査にも触れる。