嬰児をみとりに来る母の霊
どんな伝承か
昭和の初めごろ、大谷村での話である。停留所に着いたバスから若い女が降りたかと思うと、運賃も払わずにあわてて駆け出して行った。ひどい客だと思っていると、翌日も同じ場所で同じ女が降り、すうっと行ってしまう。今度こそはと車掌が後を追うと、女は忌中の札を貼った家へ入っていった。家の者と運賃のことを話しても話が噛み合わない。よくよく突き合わせてみると、一週間ほど前に赤ん坊を残して死んだばかりの若い母が、あの世へ行ききれず、わが子を看取りに通っていたのだとわかった。運転手と車掌は青くなり、三日ほど仕事を休んだという。
原典より
昭和の初め頃、ある日停留所に止まったバスから若い婦人が降りたかと思うと、料金も払わないでアタフタと駆けだして行ってしまった。—— 宮城県史 民俗編(茂木徳郎(「妖怪 幽霊」の章)・宮城県史シリーズ) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
宮城県史 民俗編(茂木徳郎(「妖怪 幽霊」の章)・宮城県史シリーズ)
『宮城県史 民俗編』は宮城県の県史の民俗編で、ここに収めるのは茂木徳郎が執筆した章「妖怪 幽霊」である。山・道・木・水・海・雪・家など出現の場所による分類に沿って妖怪変化を論じ、幽霊とヒトダマ・死霊・生霊の観念を考えたうえで、県内の妖怪・幽霊・動物変化の伝承を郡・町村名を添えて集める。序説・本論・事例篇・参考の順に並び、序説では昭和二十四年の迷信調査と昭和三十年のNHK仙台中央放送局の調査にも触れる。