天狗祈禱の夜に死んでいた尾の裂けた獣
どんな伝承か
大正二年の前年頃から、前橋市の北岩神村あたりでは養蚕の時期になると、何者とも知れず一夜のうちに蚕を喰い荒らすものが現れ、被害が大きく養蚕をやめる家さえ出た。ただし害を受けるのは岩神村全部ではなく、松本長吉方をはじめ二三軒に過ぎなかった。その年の春も被害が頻発するので、人に勧められるまま武州コブガ原という所から祈禱によって天狗を請じ、害を除いてもらったところ、効験があったのか、その夜、屋外で一匹の奇妙な小動物が何かに噛み殺されているのが見つかった。通常の鼠より小さく、鼻は猪のようで目は縦につき、全身に軟毛が密生し、尾の先が二つに裂けた稀な奇獣であったという。
原典より
その大きさは通常の鼠よりも小さく、鼻は猪の如く目はタテについていて、まるで土竜のようであり、全身に軟毛が密生し、尾の先が二つに裂けている、世にも稀れな奇獣であった。—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。