ひとり残った茂助を埋めた氷雪
どんな伝承か
「谷の響」三之巻「圧死」の、安政三年六月二十日の条である。独狐村の茂助が仲間とともに水無山に登り、手に手に雪を取っていた。すると一陣の響きが山中に轟いたので、みな恐れをなして引き返そうとした。しかし茂助だけはその場に残り、すぐに追いつくからと言って他の者を先に帰した。まもなく雷が震えるように響き渡り、数十丈の氷雪が谷を埋めて崩れ落ちた。後に残されていたのは茂助の屍骸ひとつであった。同じ書には、雪崩によって命を落とした者の話がほかにも並べて記されている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。