吹雪の地獄谷に響く夫恋しの声
どんな伝承か
佐々良峠の見出しで語られる立山地獄谷の話。地獄谷には各地から亡者が集まり、他人には見えないが、肉親が訪ねると生前の姿で現れるという。立山を望む里に仲むつまじい若夫婦がいたが、夫が風邪がもとで亡くなった。嘆き暮らした若い後家は地獄谷のことを聞き、春まで待てという里人の制止を振り切って、秋の末に夫恋しと呼びかけながら出かけた。地獄谷の入口にたどり着いたころ雪が降り風が出て、それきり消息は絶えた。以来、吹雪の夜にこのあたりを通ると、夫恋しという女の声が聞こえるという。
原典より
その後吹雪の夜、この辺りにさしかかると、夫恋し、夫恋し、と女の声が聞こえてくるそうだ。—— 怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。