町を通る餓死者の行列
どんな伝承か
上閉伊郡の遠野は南部家の支藩の城下町で、海岸と内陸を結ぶ地点にあり、荷を積んで往来する者が旅籠に泊まった。取り巻く村は貧しく、いつも飢饉に襲われた。食べ物がなくなると村の者は城下町へ歩いていき、町に着かぬうちに行き倒れる者もいた。町の旅籠や商家は日が落ちると戸を閉め、朝は早くから戸を開けた。餓死した者の死骸を、まだ戸の閉まっている家へ運んでおくからである。ある晩秋、海岸のほうから飢えた者の列が町に入り、翌朝には死骸が列をなしていた。二日目には倍になり、三日目の朝には誰が片付けたのか綺麗であった。その晩、楽になった、楽になったと言う声が起こり、額に三角の紙をつけた者たちがぞろぞろと通っていった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。