板谷峠の茶屋で顔になったせいろ
どんな伝承か
福島から米沢へ抜ける板谷峠に、とろそばを名物とする茶屋が一軒あった。いつの頃からか峠に化け物が出るという噂が立ち、街道を行き来する者が減った。米沢の宮島某という侍がこのままには棄ておけぬと峠へ向かい、茶屋に立ち寄ってそばを所望した。親爺がせいろにそばを盛って出す。空になったせいろが突然飛び上がって親爺の顔に貼りつき、そのまま顔になった。すだれがぱくぱくと動いて口をきく。宮島某は少しも驚かず、峠がさびれるからここには出るなと諭した。後日、茶屋の使いが届けたせいろは、いくら食べてもそばがひとりでに出てきたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。