小湊の浜を襲った甲八尺の大蟹
どんな伝承か
津軽の小湊の海辺に津波が押し寄せてきた。波はたちまち大きくふくれあがり、漁家は揺れ動いて流されたものもあった。海から打ちあげられたものの中に、甲の直径が八尺もある大蟹がいた。漁師たちは津波の仕業はこの化け物大蟹だといって打ちかかったが、蟹は螯で棒を切り網を切って海へ逃げた。その後、大蟹は漁師が出漁した留守を狙って襲い、女房子供の首をパチンパチンと刎ねた。立ち戻った漁師たちは泣き悲しみ、大蟹さがしがはじまった。ある月の出た晩、海辺で見つけて死闘の末に右の螯を打ち落したが、蟹は海へ逃げ、螯はまた新しく生えていたという。この地方では今も蟹は獲れるが、化け物蟹は網にかからない。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。