最上川河口に現れた竜の頭
どんな伝承か
羽前国の酒田は最上川の河口にある町である。明暦三年の夏のよく晴れた日、中天が突然ひかった。町の人びとが空を見上げると、青い色をした竜の頭が現れていた。大きさは牛の頭ほどで、ひかっているのは竜の目の光である。ずんずん降りてくるぞ、降りぬように火を焚けと誰かが叫び、家々で火が焚かれた。降りるな降りるなと叫びたてる声とともに、地上は一面が火の海のようになった。竜の頭はますます大きくなり、地上の騒ぎを見下ろしながら悠然と漂っていたが、海のほうから湧いた雲が四つに分かれてやわらかに包み、そのまま消えて二度と姿を見せなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。