山から戻った小夜婆の三晩
どんな伝承か
青森県三戸郡五戸町の旧家、田中館の一人娘の小夜は美しいと町の評判だった。日課の桑摘みに山畠へ出たまま戻らず、桑の木の下に草履が揃えて残されているだけであった。五、六十年が過ぎて明治になったある大嵐の日、爪が鷲のように伸びて曲がり、肌に苔の生えた老婆がススキの原を掻き分けて屋敷を訪れた。老婆は自分は山のものに見染められて山奥へ入った小夜だと名のり、家が恋しかったと語ってキノコや山ブドウを差し出した。膳を塩辛いと言いながら三晩泊まり、以後毎年秋の末の大嵐の日に山の土産を携えて来たが、三年ののち、山のものと出羽へゆくと告げて雪の日に去り、それきり消息は知れない。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。