稚児を呑んで石になった蛇
どんな伝承か
「東奥古伝」に載る話である。和賀地方の黒石村の中を北上川が流れ、川の中に蛇石がある。往来する船はこの石に悩まされた。由来はこうである。稗貫郡五大堂に知空法師という高僧がおり、身の廻りの世話をする秀丸という美男の稚児がいた。この稚児を狙う蛇が、知空の留守に稚児を呑み込んだ。嘆きが怒りに変わった知空は、燈明の油に青石を入れ、弘法大師が鍛えたという太刀の切先に舎利仏を打ち込み、七日七晩祈った。五晩目に青石は砕け、六晩目に蛇が若い男の姿で現れて罪滅ぼしを願ったが、僧は口を噤んだままであった。蛇は沼を出て北上川へ入り、女房の雌蛇も後を追った。雄蛇は黒石のあたりで振り返り別れを告げ、たちまち石に化した。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。