狐憑きの病婦が板塀を跳び越える
どんな伝承か
松江市殿町のある呉服店の妻女が奇病にかかり、医療の甲斐もなく、大食したり絶食したりして食に常度がなく、日夜奇異な言動をするので狐憑きだと言われた。病状は次第に悪化して痩せ衰え、骨と皮ばかりになって自力では動けなくなり、狐に命を取られるだろうと噂された。ある人の勧めで主人が修験者を招き、半日ほど加持をさせると、病婦は障子を開けてくれと言い出した。開けてやると病床からすっくと起き上がって縁側へ出、六尺余りの板壁を一跳びに越えて外の大きな古井戸へ落ち込んだ。救い上げられてからは怪しい言動が消え、健康も回復した。
原典より
そこで障子を開けてやると、病床からスックと起き上つて縁側へ出で、八九尺ばかりの小庭の先きに六尺餘の板壁があつたが、縁側から一ト飛びに夫を跳ね越へて出で、壁の外にある大きい古井戸の内へ落込んだ。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。