普済寺で笛吹きに札はがしを頼んだ先妻の霊
どんな伝承か
笛を好む人が、家では人の声に気が散るため、夜ごと人のいない普済寺へ行って吹いていた。ある夜、墓に腰かけて吹いていると、水のように冷たい手が足首をつかんだ。構わず一曲吹き終えて誰かと問うと、青ざめて痩せた女が現れ、自分は登富屋町の某の妻で、死に際に再婚しないと誓った夫がすぐ後妻を迎えたのが妬ましく、取り殺そうと家まで行っても戸口の御札のせいで入れないので、札をはがしてほしいと泣いて頼んだ。案内されて札を取り去ると女は消え、家の中で怪しい声がした。その夜、後妻は急死したという。
原典より
或人、好みて笛を吹けるに、我家にては所詮、脇に人声するに心移りて思ひの信ならねば、夜中人の居らぬ普済寺ならんとおもひ、夜毎に到り吹けり。—— 岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年))
『岩邑怪談録』は、岩国藩士広瀬喜尚の怪談録に後人の増補と続録を合わせ、岩国徴古館が昭和五十一年に発行した資料集である。岩国周辺で人々が出会った化物・大坊主・生首・怪火・狐狸・天狗倒し・幽霊などの話を収め、藤田葆が編んだ『岩国沿革志』のうちの二冊を底本に、なるべく原文のまま新字に改めて載せる。広瀬の本録に、今田純一の追加、藤田の続怪談録と実事談・変死、静間密の付録五話を続け、巻末に語注を付す。