取材の日に営まれた伝承者の葬儀
どんな伝承か
二〇〇〇年五月、児啼爺伝説の地であるアザミ峠を探訪した取材班は、帰途、挨拶を兼ねて取材をさせてもらおうと、伝承者である平田五郎氏の宅に立ち寄ることにした。急勾配の段々畑を縫うように民家が点在する美しい集落を、多喜田氏の案内で散策がてら歩いて到着した平田家の沿道には、あろうことかお弔いの花輪が連なっていた。なんとその日、当の五郎氏の葬儀が営まれていたのである。あまりにも皮肉で、にわかに信じがたい偶然であった。「昨年秋、取材にうかがったときは、お元気そうだったのに」と、ショックで強張った面持ちの多喜田氏が無念そうに呟いた。五郎氏は児啼爺記念碑の建立を病没直前まで口にしていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
妖怪伝説奇聞(東雅夫・2005年(平成17年))
『妖怪伝説奇聞』は、東雅夫が二〇〇五年に学習研究社から刊行した妖怪伝承地の探訪記である。稲生物怪録の木槌、クダン、牛鬼、塵輪、ナメラスジ、八幡の藪知らず、鬼の骨、蛇骨、鍋島の怪猫、児啼爺などを追い、中国・四国・九州ほか各地の寺社や旧家を訪ねて遺物と伝承を確かめる。月刊誌「ムー」の連載「日本伝説紀行」の十二章を三つのカラーグラビアで区切り、巻末に草双紙『鍋島猫騒動』の復刻を添える。