旧軍港の病院で寒いと訴えた影
どんな伝承か
著者が弘前大学の研究室にいた頃、八月二十日の午前三時半頃の体験である。前日、恩師のY教授と友人の医師A君と三人で当地へ来て、仲間のいる病院に立ち寄り、歓談したのちその病院に泊まった。A君に起こされると、閉めたはずのドアが二十センチほど内側に開いており、足音がドアの前を通るたびに黒い影のようなものが横切る。どなたですかと声をかけると足音はぴたりと止まり、「寒いんです。とても寒いんです」という物悲しい声が返った。翌朝、病院長から、この病院は大戦末期に軍港が米機の空襲を受け、負傷した海軍兵士たちで廊下も部屋も血の海と化したと聞かされた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
私は幽霊を見た(東雅夫(編)・MF文庫ダ・ヴィンチ)
『私は幽霊を見た――現代怪談実話傑作選』は、東雅夫が編んだ怪談実話のアンソロジーで、メディアファクトリーのMF文庫ダ・ヴィンチの一冊である。平山蘆江・火野葦平・佐藤春夫・徳川夢声・遠藤周作・柴田錬三郎から石原慎太郎・新倉イワオ・稲川淳二まで、作家や文化人が自ら見聞きした幽霊や怪異を書いた文章を集める。目次には二十三篇と編者解説が並び、水木しげる・山田野理夫・桝井寿郎の座談「怪談詮議」や中岡俊哉「イタコの謎を追う」の抄録も含む。