棺の蓋を開けると赤らんだ両頬
どんな伝承か
弘前で霊魂の実験を約束したお婆さんは、脳出血に倒れて数日で世を去った。夫も長男も十二月十四日に亡くなっているから自分も同じ日に逝きたいと生前から言っていたが、息を引き取ったのはまさにその十二月十四日、午後三時半のことだった。それから三日目の朝、火葬場へ送り出す直前に、近親者が集まって最後の別れにと棺の蓋を開けたところ、亡骸の両頬がぽっと赤みを帯びていた。気温の変わり目で細い血管がひらいただけかもしれない。それでも身内の者たちは、しっかり者の婆さまが最後まで見苦しい顔を見せまいとしたのだろうと語り合ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
私は幽霊を見た(東雅夫(編)・MF文庫ダ・ヴィンチ)
『私は幽霊を見た――現代怪談実話傑作選』は、東雅夫が編んだ怪談実話のアンソロジーで、メディアファクトリーのMF文庫ダ・ヴィンチの一冊である。平山蘆江・火野葦平・佐藤春夫・徳川夢声・遠藤周作・柴田錬三郎から石原慎太郎・新倉イワオ・稲川淳二まで、作家や文化人が自ら見聞きした幽霊や怪異を書いた文章を集める。目次には二十三篇と編者解説が並び、水木しげる・山田野理夫・桝井寿郎の座談「怪談詮議」や中岡俊哉「イタコの謎を追う」の抄録も含む。