日大病院の手術中に見た暗い河原
どんな伝承か
昭和四十三年五月、神田駿河台の日大病院で耳の手術を受けた。術後は手術した側の耳を上に向けていなければならず、音のない世界に置かれた。寝ていて息苦しくなり、布団をはねのけようとしても体が動かない。そのうち大きな寝台に横たわる自分がだんだん小さくなって見え、白いシーツの真ん中に穴が開いて、奈落へ吸い込まれるように下へ落ちていった。着いたのは風も音もない暗い河原で、草が生い茂っていた。向こう岸から早く渡れと促す声がするが、橋も舟もない。渡れる気がして進もうとすると、もう一人の自分が引き止めた。そこで掃除に来た女性に揺り起こされた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。