私的制裁のなかった歩兵連隊の中隊
どんな伝承か
私が入隊したのは昭和七年、高知の歩兵第四十四連隊であった。兵舎の入口付近には『内務優秀中隊』『射撃優秀中隊』の二本の赤い大標柱が立てられ、中隊訓は『和親団結』であった。中隊長は陸大専科出の白石皓大尉で、兵隊からの信望が厚く、世にいうビンタやしごき、鶯の谷渡りなどの私的制裁は一切禁じられ、皆無であった。理不尽ないびりの多かった当時の軍隊にあって、人道的に運営された中隊の記録である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。