板に乗って泳ぐ魚と思われたかまぼこ
どんな伝承か
明治三十年頃、金沢第九師団歩兵第七連隊でのことという。ある日の夕食どき、兵士たちが食堂で上官の入場を待っていると、入隊したばかりの若い兵士が、板に乗ったかまぼこを指して「これは何というものですか」と尋ねた。「かまぼこという魚の加工品だ」と教えると、彼は「へえ、利口な魚だなあ、水に沈まぬよう板に乗って泳いでいるのだ」と本気で驚いた。尋ねると彼は海のない飛騨の山奥の出身だといい、海を知らぬ山国育ちゆえの勘違いに、周りは笑いをこらえきれなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。