本富士署の留置場で絶えた亡霊
どんな伝承か
大阪を逃げ出して東京へ出た東は、仕事を探して本郷のあたりをうろついているうちに、挙動が怪しいとして本富士警察署の刑事に捕まり、留置場に入れられた。そこでも東は夜ごとひどくうなされ、刑事から、やったことを残らず打ち明けて裁きを受け、楽になってはどうかと諭された。このままでは体がもたないと悟った東は、隠していた安本殺しも含めて罪をすべて白状した。予審でいまも幽霊が出るかと問われると、白状したその晩から一度も現れず、安心して眠れるようになったと答え、どんな裁きも喜んで受けると述べたという。
原典より
本富士署の旦那の説諭で、一切申し上げたその晩からというものは、今日まで一回も出て来ません。—— 幽霊が裁く(堀忠嗣・法曹) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊が裁く(堀忠嗣・法曹)
『幽霊が裁く』は、名古屋高検検事長の堀忠嗣が書いた随筆である。東京地検の刑事部長だった昭和十七年八月に読んだ予審記録をもとに、昭和十二年に大阪の新世界で口論の相手を殴り殺し、過失の凍死として片付けられた前科者が、刑務所で毎夜その亡霊に悩まされ、出所後も取り憑かれた末に、本富士警察署で自白した晩から幽霊が出なくなったいきさつを記す。予審調書の問答を引いて結び、良心の呵責と亡霊の裁きについての感想を添える。