幽霊が裁く
どんな伝承か
昭和十七年八月、東京地検の検事だった堀忠嗣は、傷害致死窃盗事件の記録を読み直した。被告の東(仮名)は前科四犯の老年の男で、独房で毎晩うなされていた。事情を聞くと、かつて長崎で殺した安本の亡霊が夜な夜な現れ、血まみれの形相で迫ってくるのだという。銭湯や居酒屋でも悪寒に襲われ、女将に見えない連れがいると指摘されるなど、良心の呵責に苦しめられていた。
原典より
忘れもせぬ昭和十七年八月、蒸暑い日の昼さがりのこと、当時私は東京地検の刑事部長でしたが、いささか暑さにうだつて睡気を催していると、ドサリと、分厚な一冊の記録が未済箱の中に配られて来た。—— 幽霊が裁く(堀忠嗣・法曹) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊が裁く(堀忠嗣・法曹)
『幽霊が裁く』は、名古屋高検検事長の堀忠嗣が書いた随筆である。東京地検の刑事部長だった昭和十七年八月に読んだ予審記録をもとに、昭和十二年に大阪の新世界で口論の相手を殴り殺し、過失の凍死として片付けられた前科者が、刑務所や住まいで毎夜その亡霊に悩まされ、本富士警察署で自白した晩から幽霊が出なくなったいきさつを記す。予審調書の問答を引いて結び、良心の呵責と亡霊の裁きについての感想を添える。