正気に返った者が拇指の爪から魔物が入ったと訴え
どんな伝承か
大乱闘の末、狂乱者を全て搦め捕り、正気に返った者を阿弥陀堂の境内に端座させて吟味した。すると正気に返った百姓の一人が突然『あいつがまた私の左手の拇指の爪から入って来た』と叫んだ。見ると皮と肉の間に梅の実ほどに膨れた箇所があり、腕を握って絞り出すと、いつの間にかそれが消えた。当人は『爪先から出た』と喜ぶ。足の爪や小指から入ったという者も次々現れた。膨れの正体は掴めなかったが、爪先から出血する者もあり、皆爪の色が死灰色を呈していたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
二つの怪奇な心霊現象(浅野和三郎・1940年(昭和15年))
『二つの怪奇な心霊現象』は、浅野和三郎が著し、心霊科学研究会が昭和十五年に発行した心霊現象の記録で、昭和二十七年に再版された。前篇は土佐国長岡郡豊永郷岩原村で村人数十人が憑きものに狂乱し、藩の役人が祈禱や鉄砲で鎮めた事件を、嘉永六年に野島通玄が記した記録から紹介する。後篇は山梨県北巨摩郡穂坂村の旧家の娘かね代に先祖横森市兵衛の霊が懸かり、盗まれた不動明王の掛軸が戻った因縁を、著者の調査と甲州訪問記を添えて述べる。