麦畑になった松木屋敷跡と焼け残りの椿
どんな伝承か
著者は佐治兵衛に案内されて松木の屋敷跡を訪ねた。跡地は麦畑になり、二間ばかりに伸びた椿が風にふるえていた。火薬小屋のあった上の段は墓地で、それが松木一家の墓である。穀蔵の間にあったという椿の木が、半分焼け焦げたまま一本立っているのが物凄かった。奥座敷のあったあたりには、真土の村人の手で建てられた松木の冥福を祈るための念仏堂があった。佐治兵衛は竹杖で「裏門はここ、穀蔵はこのあたり、火薬小屋はここ、木砲はここから撃った」と一々指し示し、著者はその通り手帳に記入した。村道を通る村人は不思議そうな顔で二人を見ながら行き過ぎた。
原典より
穀藏の間にあつたと云ふ椿の木が、半分燒けこげたままに一本立つてあるのが物凄かつた。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。