庚申塚の三叉路で斬られた宮田忠左衛門
どんな伝承か
上大森村の鎮守の社が改築になり、神官の磯部家で落成の祝宴が張られた。宮田忠左衛門はその席に招かれ、夜の十一時ごろ、下男の照らす箱提灯の火を頼りに帰って行った。道が三叉になって庚申塚のある所へ来て右へ曲がりかけたとき、路端の藪陰に待ち伏せていた怪しい人影が不意に躍り出た。提灯の火が消え、ばたばたと物音がしていたが、間もなく静まって風の音ばかりになった。忠左衛門は惨殺されたのである。その夜、四五日姿を見せなかった芳野與三右衛門が雨戸を叩いてお糸を起こし、「貴女の怨みを晴らしてやった、宮田忠左衛門をやって来た」と得意げに告げた。最上家は犯人を探索したが遂に知れなかった。
原典より
路ぶちの藪陰に待ち伏せてゐた怪しい人影が不意合から躍り出した。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。