寺男が漏らした和尚の秘めごと
どんな伝承か
夜になると、枇杷葉湯売りは寺の台所の片隅で、五十近い痩せた寺男と酒を酌み交わした。酒好きの寺男の顔が赤らんだころ、男は和尚さんにはどんな楽しみがあるのかと水を向けた。寺男は得意げにうなずき、和尚には弁天のような女がいる、甲府の後家で小柄な可愛い顔の女だと漏らした。日が暮れて人目がなくなると蝙蝠のようにやって来て、一昨日の晩に来たから明日か明後日にはまた来るだろう、来たら知らせてやるという。男はいよいよあの女だと思い、心のどこかが崩れるのを感じた。四十三だという和尚の顔とその女を並べて思い浮かべ、唇をかんだ。
原典より
『陽が入って人目にたたないやうになると、蝠編のやうにやって来るよ、』—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。