しばてんに化かされ石碑と相撲
どんな伝承か
著者の郷里の村では、狸と並んでしばてんの話もよく聞かされた。しばてんは子どもの姿をしていて、親類でもてなされて帰る村の男の前にちょこちょこ出てきては、相撲を取ろうとせがんだ。男が生意気なと笑って胸を突くと、子どもはびくともせず男の方がよろけ、抱えて投げようとすればふいと身をかわされて前へのめった。翌朝、地引網に行く者に声をかけられて我に返ると、男は海岸の松原で大石塔と呼ばれる無縁の大きな石碑を相手に相撲を取っていた。茨の藪で血まみれになって茨と組み合っていた者もいた。しばてんは麦の穂が黄ばむ初夏によく出て、遊ぶ少年をたぶらかしたという。
原典より
その男は、村の者から大石塔と云われている海岸の松原にある無縁の大きな石碑を対手に角力をとっていたのであったが、…—— 日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年))
『日本の怪談』は、田中貢太郎の怪談を昭和四十五年桃源社刊『日本怪談全集』から抜き出した文庫本で、昭和六十年十二月に河出書房新社から発行された。「宝蔵の短刀」「八人みさきの話」など土佐の城下や村の話をはじめ、江戸・京・吉野などを舞台にした幽霊・狐狸・猿・魔物の話を、会話の多い語り口で収める。二十七篇の後に尾崎秀樹の解説を付し、高知に生まれた作者の生涯と怪談・妖異譚への傾倒をたどっている。