叔父の金を奪った寄席に出る僧の霊
どんな伝承か
八丁堀に岡吉という色物専門の寄席があった。経営者は米という仕事師である。米の叔父の僧侶が廻国に出るとき、路銀は不要だといって三百円を預けて行った。病を得て帰り金を求めると、米は証書を出せと言い張って知らぬ顔を通した。日没時、岡吉の木戸でまた口論となり、米は坊主は縁起が悪いと叔父を戸外へ突き出し、下足番に塩を撒かせた。翌朝、町内の材木屋白木の軒下に叔父が首を吊っていた。米の不人情を知った白木の主人は出入りを差し止め、自分の家から葬式を出した。その後、岡吉の客席や便所の前、楽屋の入口によれよれの法衣の僧侶が現れ、坊主の幽霊が出ると噂されて客足が絶え、寄席は間もなく閉じた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。