死んだ蛇の墓に座り込む蛇屋の娘
どんな伝承か
昭和六年頃、下関市田中町に松山大助という蛇商があった。長女の阿花は綺麗で気だてもよく縁談が絶えなかったが耳を貸さなかった。店の蛇のうち可愛い二疋を懐や寝床に入れて可愛がるのが面白かったからである。陽気のかげんか二疋が前後して死に、阿花は裏の山へ葬った。以後は店にも出ず、暇さえあれば裏山へ通った。ある夜、母親が阿花の室を見ると蛇の死骸を寝床に入れて寝ていたので驚き、父親と相談して死骸を上田中町の陸軍火薬庫付近の山中へ埋めた。翌日、阿花の姿が消え、夜になって埋めた処に坐りこんでいるのを見つけられた。付近では蛇との神秘な交渉があったのだと噂する者があった。
原典より
* 遁げて往く人魂 (234)* 空を見る女 (235)* 手鏡 (236)* 瘤の運動 (237)* 格子戸に挟まれた老婆 (239)* 謎の客 (240)* 天井からぶらさがる足 (243…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。