池に浮いた足首と墓地から来た火の玉
どんな伝承か
明治四十四年の頃、高知県土佐郡一宮村の薊野に城戸という豪農があり、隠居が婢という名義で妾を置いたところ妊娠した。世間体を憚って生まれた児を息子の児として届けさせたので、息子と妾の間が妙なことになった。それを知った息子の細君が嫉妬し、ごたごたの末に遺書を残して姿を消した。挿秧の時期であったが村人は鐘や太鼓を打って捜し、見つからなかった。七日目の雨の夕、江ノ口村比島の農家岡崎が城戸家の正面の池で鍬を洗うと、鍬に女の長い髪が絡み、水面に水脹れした白い足首が出ていた。後日、岡崎が夜そこを通ると、城戸家の屋根から火の玉が転げ落ちて足下を廻り、理を説くと墓地の方へ飛び去った。
原典より
* 蟹 (255)* 竹杖に芽を吹く (258)* 掠奪した短刀 (260)* 桐原事件の一挿話 (262)* 位牌が動く (269)* 亀の子を握ったまま (270)* お墓の掃除 (272…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。