四ツ谷駅のホームで声を失う
どんな伝承か
作家の永倉万治は、四十一歳の誕生日を迎えて間もなく脳溢血で倒れた。その日は四谷の放送局の生番組に出る予定で、午前十時ごろ中央線の四ツ谷駅で降りようと席を立った。その瞬間、右の肩と足からがきっという音が聞こえた気がして体がよろけ、ホームへ押し出されるように倒れた。意識はあり、周りの声も靴も空も見えるのに、声だけが出ない。頭の中に言葉はあるのに口から出てこないのだった。通りかかった中年の男が救急車を呼んでくれ、十数分ほど横になっていた。運ばれた病院で左の大脳基底核の出血と診断され、翌朝に四時間の手術を受けた。意識の戻らない日々が続き、その間に臨死体験をしたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
証言・臨死体験(立花隆・臨死体験・ノンフィクション・1996年(平成8年))
『証言・臨死体験』は、立花隆が文藝春秋の雑誌『クレア』に連載し、一九九六年に単行本として刊行した臨死体験の証言集である。俳優の安田伸、作家の水上勉、彗星探索家の木内鶴彦、プロレスラーの大仁田厚、映画監督の羽仁進など、病気や事故で死の淵に臨んだ二十三人の体験を、本人や家族からの聞き取りで記録する。各章は人物の略歴と前置きに続けて問答形式の談話を載せ、本人の著書や手記からの引用も交える。