暗室の本棚に灯った微光と天狗
どんな伝承か
昭和十年頃、笠井鎮夫は義弟の奈良秀一を霊媒に仕立て、杉並区西荻窪の自宅で物理的心霊現象の実験を盛んに行なっていた。ある夜、霊媒を入神状態に導いていると、真っ暗な六畳間の壁ぎわに置かれた高さ二メートルばかりの本棚の上に、赤黄色の微光が現れた。光は次第に強さを増して水色に変わり、坐っている膝の前の畳の目まで見分けられるほどになった。やがて入神した霊媒の口を借り、青森県岩木山の幽界に棲息すると自称する馴染みの天狗が「あの灯はわしが自転車用の電池に充電してあげたのじゃ」と挨拶した。電流の尽きたその電池がそこにあったことさえ、一同は知らなかったという。
原典より
『今晩は。あの灯はわしが自転車用の電池に充電してあげたのじゃ』—— 近代日本霊異実録(笠井鎮夫・霊異・神憑り実録・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
近代日本霊異実録(笠井鎮夫・霊異・神憑り実録・1966年(昭和41年))
『近代日本霊異実録』は、笠井鎮夫が著して昭和四十一年に昭森社から初版を出した、幕末から近代の神憑りと霊異の記録で、ここに収めるのは昭和四十八年に山雅房から出た複刻版である。金光教・黒住教・天理教・大本の教祖の神憑り、井上正鉄の求道、宮地常磐・堅磐父子や河野至道の神仙譚、天狗の弟子寅吉の話、長南年恵の奇跡などを、手記・写本・旧著を引いて語る。全十二録からなり、第一録には金光教に入信した著者の父の手記を収め、巻末にあとがきと著者略歴を置く。