逆境の寡婦出口直の神がかり
どんな伝承か
明治二十五年正月、京都府綾部で、大工の寡婦で五十七歳になる出口直という老婆が突然神憑りになった。天理教祖中山みきの没後五年目、金光教祖川手文治郎の神上りから九年目のことである。浅野和三郎が大正六年に記した文によれば、開祖の前半生は貧困と苦労に尽きた。天保七年、丹波福知山の桐村家に生まれ、二十歳で綾部町字本宮の大工出口政五郎に嫁したが、政五郎は財産を酒食に浪費し明治十八年に死んだ。直は五十二歳で八人の子女を抱え、餅屋の小商いで支えたが、長女は悪漢に拐われ、長男は脱走、次男は台湾で行方不明、三女と長女は発狂した。この逆境の中、破屋に祭壇を設け水行を続けていた矢先の神憑りだった。
原典より
三十五歳の処女長南年恵が山形県鶴岡において不思議な霊能を現わし始めたころ、京都府綾部においては、大工の寡婦で五十七歳になる出口直という老婆が突然神憑りになった。—— 近代日本霊異実録(笠井鎮夫・霊異・神憑り実録・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
近代日本霊異実録(笠井鎮夫・霊異・神憑り実録・1966年(昭和41年))
『近代日本霊異実録』は、笠井鎮夫が著して昭和四十一年に昭森社から初版を出した、幕末から近代の神憑りと霊異の記録で、ここに収めるのは昭和四十八年に山雅房から出た複刻版である。金光教・黒住教・天理教・大本の教祖の神憑り、井上正鉄の求道、宮地常磐・堅磐父子や河野至道の神仙譚、天狗の弟子寅吉の話、長南年恵の奇跡などを、手記・写本・旧著を引いて語る。全十二録からなり、第一録には金光教に入信した著者の父の手記を収め、巻末にあとがきと著者略歴を置く。